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小説『花そとば』 第33話

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  こえんふどき五円風土記タイトル
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   はなそとば タイトル
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               第二部 山端の巫女(やまはなのみこ)   33

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      八  夢の歯車 (ゆめのはぐるま)   



 フランスから「POSTEXPORT(ポステクスポール)一通と、COLISSIMO(コリッシモ)一箱」が届いたのは正午が少し前であった。
 6㎏用箱とあるが、送り主はRobert Villon(ローベル・ヴィヨン)教授である。
 秋晴れの穏やかな日で、京都の狸谷は比叡の西陰とういう質(たち)もあり、嵐山などに比べると秋色の訪れも遅く、この頃ようやく丹色(にいろ)の彩りを見世(みせ)はじめていた。

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 玉露を淹(い)れ立てる湯加減を計りながら、その温もりの手肌で先ほど波多野から届けられた郵便物にそっと触れてみた。早速開くには妙な慎みを覚え、一知半解(いっちはんかい)のもどかしさがあった。
 開く前からこんなに開くことを憧れていた郵便物はなかった。受け取る直前にすでに胸がはちきれていたといってよい。これも偶然である。だから先ず撫(な)でるように触れた。泛(う)き泛きしすぎて、どうにも開ける算段にまでならなかった。慎五郎はしばらく、まどろみの中の逆旅(げきりょ)の風景に座らされていた。
「私は、ヴィヨン教授に訊(き)きそびれていた事が未だ数多くある・・・」
 先ほどまで、山桜を見続けていたからであろう、まるで幻覚剤を飲み込んだまま、また別の映画を見ているようなのである。
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 その逆旅の中には、明るい道や暗い森を抜けていけば出会える幻想としてのヴィヨン教授がいた。しかしこの時はまだ、その幻想がどんな前後の脈絡をもっているかということなど、まったく意に介していなかった。慎五郎は、あたかもフランス人が、フランスを思い出しているかのように、フランスをつねに香ばしく語ってくれていた、ローベル・ヴィヨン教授のことをひたすらに回想した。
「もう、パリの郊外では、乗馬で散歩する人が多い。当時、よく見かけたが・・・」
 サマータイムが終わって日本との時差が8時間ぐらいの少し遠さを感じるころの、フランスは日照時間を短くさせた夕暮れ時がとてもいい。どうにも人恋しくさせて、素晴らしい紅葉を随所で堪能することができる。
 郊外の川辺には、優雅な形の家々が続き、或日その一軒の家に伺って、田舎暮らしのフランス人に実際に会ってみると、表情も会話も柔和なのだが、言葉にはし難いほんわりとした綿にでも包まれるような体験をした慎五郎には、石の積み重なるアンティークな秋色が印象深く思い起こされた。
「サン・ラファエルに向かう道中もじつに良かった。しかし、トランペットの嵐には困ったが・・・」
 高い山がなく台地が国土の大部分を占めるフランスでは、車窓から黄金色に色づいた黄葉をどこまでも続かせて行く。日光が流れるようにたわむれて夢幻の印象をつくりつづけていた。
 じつに広大だから、慎五郎が窓辺から望む京都の紅葉山とは断然趣きも違う。しかし親しみという一点では、見飽きた瓜生山の紅葉が安らいでいい。そんな慎五郎の、やがて艷やかな賑わいをみせるであろう、その楓(かえで)や錦木(にしきぎ)の林をながめていた眼が、懐かしい輝きとなって10年前の面影を拾うように捕らえると、紫煙を燻(くゆ)らした老紳士の横顔がみるみる明らかとなってきた。

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「リヴィエラ海岸を見下ろす石畳の村・・・」
 太陽に干涸(ひか)らびた石畳の道を一歩一歩登っていくと、まるで中世のおとぎ話の世界が山頂に現れる。この頂上からコートダジュールを一望できる鷲の巣村がEZE(エズ)という古い山城跡の回廊であった。
 夏になると慎五郎は、かならずヴィヨン教授からこのEZEの街へ誘われて、しかも一度は一人だけでこっそり訪れた。迷路のような路地が続き、一年中花が途絶えることがない街並み、蔦の絡まる石造りの家、サラセン人の外部からの攻撃から備えて要塞化した村のそれらはあたかも中世に迷い込んだ錯覚を覚えさせた。
 長い夏休みの読書後は、いつも石のパティオの日陰が転(うた)た寝の指定席で、子守のようにそっと脇に置かれた白いパナマ帽が、いつしか主人から放れ自由にコロコロと転がり遊ぶかの長閑(のどか)さも、またお決まりの光景なのであったが、慎五郎はそんなヴィヨン教授のシルエットを居間の窓ガラスにくっきりと映し出していた。
「Restez Fous.」・・・(愚か者であり続けよ!)
 と、目覚めてはいつも口癖のようにこう語り掛けられた。ヴィヨン教授は、そうして好奇心と人生の楽しみを膨らましてくれたまえと、パナマ帽をそっと拾って差し出す慎五郎に、さもニーチェの静香(しずか)さでも匂わせるように遠い眼をされて、さりげなく濃厚な励ましで勇気を与えてくれた人である。ニーチェもまたエズの街とは思索で結ばれているが、ヴィヨン教授とは、ニーチェの自叙伝『この人を見よ』をみずからで独自の解説を加えながら、哲学の魅力を学ばせてくれた恩師でもあった。

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 ヴィヨン教授がニーチェから索(ひ)いたアフォリズムの樽に、漬け熟(な)されるされるような慎五郎の夏休みであったが、その肩の荷の重さを振り返れば、それらは皆、まさにそういう稀な心根の持ち主により与えられた貴重な時間なのであった。教授と過ごしたすべてを出来事の順に並べなおしてみること、教授からタグをつけられて贈られた書籍の数も膨大である。慎五郎の行き先を厳密にしるしてくれること、ヴィヨン教授の作業とはそういうものだった。
 それらは人への温かい情愛を包んでいるのだから、久しくお会いしていない異国人(エトランゼ)からの郵便物は、いかにも唐突に恩師を迎えた慎五郎にとって、新たなときめきを抱かせる訪問客なのである。
 わずか二年間の留学中の交流ではあったが、送る人も送られる人も、オルリー空港のターミナルで涙を流していた。そう、あの別れも箴言(しんげん)であろう。
「Mon fils! Mes amis! Shintaro, merci. 」・・・(息子よ。友よ。しんたろう、ありがとう)
 声高々に涙を流されて、慎五郎が、搭乗口へと消える間際まで、ローベル・ヴィヨン教授は、白い頬をまっ紅に染めて立ちすくみながら高々と両手を振り上げて見届けてくれたのだ。
 人間肯定の深い思いが常にヴィヨン教授の背後にはあった。
「君は頭もいいし、行動力もあるのだが、万事に用心深いところが、君を年齢よりも老成した感じにみせていて、周囲の眼から多少、野暮ったく思われがちだ。そこが軽んじられる要因にでもなると君が困るのであるから、君には我が母国の太陽をもっと感じ取ってもらいたい」
 という、そんな教授の言葉を想い泛かべて窓辺に映し返してみると、呼び戻されてよみがえる面影との再会に、懐かしさの深まりを悉皆(しっかい)と抱いた慎五郎は、ローベル・ヴィヨン教授の後について初めて上り下りした、カスバのように曲がりくねったエズの坂道を、踏みしめて歩いた感慨をしんみりと思い出していた。

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「ああー、私はなんと愚かなことを・・・」
 あれこれ思いだすと、正直、至らなさが恥ずかしくて、只(ただ)、詫びるしかない。
 開放感あふれるここでの生活をニーチェは「エズでは、喜びのあまり小躍りしているのを人に見られ、我慢して威厳を保つのが大変だった」と回想して書き残しているのだ、と、そのように教授から教わったのだが、当時、慎五郎に下心がなかったわけではない。
「そもそも、永劫回帰の思想とは、やたら難解なモノではないか」
 そう考えて逃げ腰でいたのだ。間違って、月並みで安直な理解のし方をしてしまうことだってある。そうなると厄介は、ヴィヨン教授を「期待を裏切られました」と幻滅させ、凶状でも廻されることになったのでは帰国後が面倒であると考えていた。毛頭、哲学に没頭する気概など無かったに等しいのであるから、いささか、慎五郎にとって夏休みの存在は煩わしことであった。
 しかしヴィヨン教授が「一切はこわれ、一切は新たにつぎ合わされる。存在という同一の家は永遠に再建される。一切は分かれあい、一切はふたたび会う。存在の円環は、永遠に忠実におのれのありかたをまもっている」と、煙草を燻らせていう、その語種(かたりぐさ)には、妙に人を曳き込み魅了させる力があった。
 そうして魅了されてみると、知らずと慎五郎もまたニーチェと同じような開放感を味わっていた。ヴィヨン教授に導かれて、トンネルのような細い通路に入れば、粗(あら)い石組みの家、遥か窓を見開いてみればエーゲ海の光、これが思索の虎口(こぐち)かと思える体験をした。
 そこには教授から「フランス的身体性」とは何かという問題が突き付けられていたが、それこそが慎五郎の過去と現在をつなぐ貴重な架け橋なのである。




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                              第34話に続く
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   京都 二十四節気 清明。


  
   京都 二十四節気 穀雨。




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   京都 花そとば



  つきの暦  2013年2月

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Sotarou Miuma
立体言語学博士
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