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小説『花そとば』 第21話

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   はなそとば タイトル
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              第一部 八瀬童子(やせどうじ)   21

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      十一  伍円笛 (ごえんぶえ)   



 先生のこの沈黙は、時間にして四~五分であろうか。モロー先生はたゞ沈黙のまま、聞き手に非常に長く感じさせながら、指先を震わしていた。そうして受講生の誰もがまったく気づかない素振りをしてそっと右のてのひらを胸に置くと、おもむろに眼差しを上げて講堂の天井に巍然(ぎぜん)と眺め入った。
「3,000 dead or more・・・」〈死者三千人以上〉
 みつめたまま声にはならず、先生はすすり泣くような弱ゝしい小さなつぶやきを残した。

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 誰の目にも追悼とうつる、そんなモロー先生のポーズに、賛意をあらわし、何よりも先生の鎮痛な胸の裡(うち)を察しようとしたのは学生達であった。秋子がうしろを振り向くと、たしかに学生の多くが、モロー先生の表情と同化しようとしていた。起立して同じ表情を示す学生も多くいた。
 だがこのときモロー先生は、応手である学生達が、この後どのような反応をもたらすか、ということに密やかな興味を抱いていた。最前列席に陣取っていた秋子は、席から伸び上がるようにして、このときモロー先生がみせた微妙なまばたきと唇の動きの中に、そんな気配を感じとったことを覚えている。
 航空機を使ったこの四つの同時テロ事件は、航空機によるテロとしては未曽有の規模であり、全世界に衝撃を与えたし、この渦中にあったのはアメリカ国民であるのだから、モロー先生の投げかけに対してそんな反応をしめしたことは至極当然の市民感情の現れであった。
 その後、アメリカはアフガニスタン紛争、イラク戦争を行うことになる。
 ウサーマ・ビン・ラーディンとアルカーイダに首謀者の嫌疑をかけた米政府は、引渡しを要求したが、これを拒否し続けられ、対テロ戦争の「不朽の自由作戦 (OEF: Operation Enduring Freedom)」を高ゞと掲げたアメリカ軍は、ターリバーン勢力を攻撃するためにアフガニスタンへと侵攻した。

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 しかし正義の逆説として、アフガン報復戦争開始時に、某新聞は「言語学者のチョムスキー氏、アフガンを語る」という記事を載せている。
 この勇気のペンのことは、日本人の秋子にも意義深く感じられた。
 言語学者チョムスキーは「アメリカは、イスラム地域の多くの人々も納得するような国際社会への手順を踏み、理性的なアプローチを最大限にとり、最終的にはテロリストのみに絞って力の行使に踏み切る方法もありうるという道を追求すべきだった。アメリカはナショナリズムが燃えたために理性を失ってしまった。無実の人々が死ぬような武力行使はノー」だと述べている。
 NATOは攻撃によってターリバーン政権を転覆させる必要を認め、2001年10月にアフガニスタンの北部同盟と協調して攻撃を行い、12月にはターリバーン政府を崩壊させた。
 この攻撃はアメリカ合衆国政府によって「対テロ戦争」の一環と位置づけられ、国際的なテロの危機を防ぐための防衛戦として行われた。イギリスを始め多くの国がこのアメリカ政府の攻撃に賛同し正義を掲げたのだが、戦争の主体者は疑うべきもなくアメリカであった。
 モロー教授の講義はこの翌年1月のことであるから、この戦争で、実際に無実の人々も殺されつゞけてきたこと知る学生も多くいた。中にはチョムスキーの観点に納得し、同氏のメッセージにアメリカの良心をみて、目頭を熱くした学生も数多くいたはずだ。リベラル・アーツならなおさらである。
 このように同時テロ後のアメリカには、二つの正義があり、対戦争に両論があった。
 モロー先生は、この大きな二つの海に一石を投げ入れたことになる。すると途端に喝采の渦が起こり、講堂に集う学生達が大きく揺れた。
 モロー先生はそんな学生達から贈られる拍手の渦を目に認(したた)めると、みずからも、おうむ返しに拍手を学生達へ贈り返しながら、さも満足げに何度もうなずいて見せた。
 講堂の響音が遠ざかるのを待つと、学生達の胸にゆだねられてモロー先生と同化したかのように思われた学生達の昂ぶりが、モロー先生の次の言葉で、また寸断された。

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「Please raise your hand if there is a person who changed the Stars and Stripes in eyes in you now.」・・(君たちの中で、今、目の中で星条旗をひるがえした人がいれば、手を挙げてください)
 この一言で、しきりと前後左右の学生達と連絡をとりはじめたことを、モロー先生は発見したのである。
「Now?Is the consultation left it at that, and is not your courage shown?Please raise your hand.」〈さあ~相談はそのくらいにして、君たちの勇気を示してはくれないかね。手を挙げてください〉
 どよめきが収まるのを待って、今度は嘲笑し返すかのように訊(たず)ねかけられた。
 これはリベラル・アーツならではの反動なのか。学生達はモロー先生にそう促されても慎重かつ冷静さを装いつゝ、まず一人手を挙げ、次に二人目が、そうして三人目が手を挙げ終えると、残りの学生達は至極当然とばかりに次ゝと手を高らかに誇らしげに掲げてみせた。留学生を除くアメリカ籍の学生の多くが、きらりとした貌(かお)の目の中に、確かに星条旗を誇らしく掲げていた。

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 しかしモロー先生にすれば、これはまったくとるに足りない一つの描写にしかすぎなかった。
「It is so. This is a dance of the catharsis. You saw the catharsis dance now.」
〈そうです。これがカタルシスの踊りです。皆さんは、今、カタルシスが踊るのを見たのです〉
 たゞこう言うと、モロー先生は何くわぬ顔をして、またこの講義の冒頭でみせた哲学紳士の、やわらかで貴公な表情を泛かべた先生へと帰っていった。
 学生達は、ねじるように振って回されたかと思うと、これを地面に叩きつけられたような心境で、そんなモロー先生をただ唖然とながめていた。
「カタルシスはカルパ国(kalpa कल्प)に生まれました」
 こう語られると、首をひねりたくて、言葉の焦げる匂いすら感じさせる。もしも、これが真なる認識だとすると、この後、モロー先生はどの様にして保証されようとなさるのか、見当がつかなかった。
 哲学は、言葉の文脈に、論理的な破綻が無い事で、その理論の正当性を求めますから、この地上には無い、誰の眼にも確かめようもないカルパ国という存在を語りかける哲学者が、目の前にいるということがそもそも不思議なのである。なぜモロー先生は、個別現象を超えた、核心的な問いから離れようとなさるのか、それが何を意味するのかが解らなかった。

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 そんな受講生の戸惑いを察したのであろう。淡い日差しのような眼をされてモロー先生は言った。
「哲学とは解っていない事を考え抜いて明らかにする事ですから、まことに非常識な学問といえる。皆さんはまず私が語ろうとする非常識な内容と向かい合いながら(カタルシスはなぜ存在するのだろう?)(カルパ国はなぜ存在するのだろう?)と、考えるところから、解っていない非常識な事を考え抜くように考えてみて下さい。これは哲学のパソコンに例えるならば、非常識なOSですね。つまり哲学問のもっと非常識な基本ソフトでもありますから・・・・」
 と、語りかけながら、また非常識に、
「カタルシスはカルパ国で生まれたことを、ギリシャの哲人アリストテレスは理解していた」
 と展開させては、通じなければならぬ脈絡がふっと切れるもどかしさを受講生に感じさせながら、淡ゝと非常識な話しをなさるのであった。
「つまりアリストテレスは、このことを承知した上で、師プラトンのイデア論を批判し、最高の善は幸福だと説いたのだ」 などと、講義が佳境となるに連れ、じつにテンポよく先生は、独自のモロー理論を語りかけられたのである。いかにも非常識ではあるが、ただし、先生は常識そうな顔をして語られていた。

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 モロー先生の講義が、他と違うのは、日常生活で直面するジレンマを「弥勒(みろく)」を題材にして未来とは何かを考えさせるのが主眼なのだが、モロー先生が京都の同志社大学といかに交流ふかき仲だとはいえ、また数年間かを日本で暮らされたとはいえ、日本人にはこうは語れないと思える弥勒観と、見えざる手について口にすることをタブーとするユダヤ人らしからぬ弥勒観だけに、秋子はたゞたゞ驚きを隠せえぬままに圧倒されていた。
「カルパ国と、この地球とは五劫(ごこう)の距離で結ばれている」
 あの八の字髭を消したからの、この仕業の所以(ゆえん)なのであろうか、肥った姿態、髭の生えたいかつい相貌とはうらはらに、なかなか優しい声である。しかし同時に、面映(おもは)ゆい脅(おそ)れを感じさせた。
 輪廻や 永遠など、むしろ忘れて生きる中にこそ、 ほんとうは 輪廻や永遠の世界が垣間見えてくる、あるいは自然なことと感じられるようになってゆくのではないでしょうか、とスピリチュアルに語られた後に それとは反対に死を非常識に直視した弥勒観なるものを展開されるのであるから、受講生の多くが、その複雑な思索におぼれてしまっている印象を秋子は強く感じ、仏教に親しむ習慣のない異邦人の眼差しに脅れのゆらぎが現れているかのようであるから、秋子にはそこが面映ゆいのであった。しかしモロー先生は、素知らぬ顔で平然と進められた。
「劫とは極めて長い宇宙論的な時間の単位で、一劫を四十三億二千万年と換算し、五劫とは二百十六億万年の距離となる」
 こうなるともう仏法そのものである。受講生は樺色にくすんだ顔を無表情に据えて、親昵(しんじつ)そうな態度で語られるモロー先生とたゞ黙って向き合っていた。しかしそれは、哲学に係わる者は盲目的に権威に服従することをタブー視するのであるから、ここを弁えようとする自然な眼差しではあった。

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「弥勒さまもまたこの遥かなるkalpaの国で生まれた」
「弥勒さまはシッダッタの入滅後五十六億七千万年後の未来に姿を現わして人類を救済するという。こう約束して地球へと向かい来る弥勒さまは、すでに百六十億万年を歩き越えて五十六億万年先の地球が見下せる夜の頂きに立っている」
「この地球からみると、弥勒さまの立つ頂きへは、未だ人類の悲劇のような長い夜がつづいてみえる」
「そんな夜とは、カタルシスの踊る舞台なのである」
 ここまでを話し終えると、モロー先生はまた、おもむろに話しの矛先を切り換えした。
「It will touch the origin of the philosophy a little here.」
〈ここらで少し、哲学の起源に触れることにしよう〉
 こう言葉を切りだすと、慨(なげ)くような眼をふたたび天井へと向けた。
「哲学とは、近代における諸科学の分化独立によって、現代では専ら、特定の学問分野を指すのであるが、そこには神のこともあれば、死のことも、数のこともある。しかしながら、学術は細分化され、対象は限定されているから、学者や研究者が問えるのは、そのように限定された領域に支配するかぎりでの前提、つまり、浅いレベルの前提でしかない。例えば、生物学者はDNAのある部分の解読にいそしんでいて、生命とは何かという根本的な問題をなおざりにしている。こうなるとラッセルのように、哲学の消失を予想する哲学者も現れてくる」
「そこで諸君らは本校を離れ去る前に、今一度、確認しておくべきことがある。それは哲学の起源である。古希のφιλοσοφία、英語のphilosophy、独語のPhilosophieとは、古代ギリシャでは学問一般を意味し、知の営みの全体を表していた。またこのピロソピア、フィロソフィアという語は、愛智という意味なのである。これはそもそもphilos(愛)とsophia(智)が結び合わさったものであるから、元来philosophiaには〈智を愛する〉という意味が込められている。この意味を込めた者は、アリストテレス以前の人々であった。確認すべきことは、この起源の本質である」
「あるいは〈愛を智する〉ことであった」
「An important person of you who came to see off when you board the train without important
";Person";'s being said is floating tears. And, it runs to chase the train that began to
run. However, the distance between two people opens in a moment. The shaking night is a stage
in the window of the night train that will be seen before long that the catharsis still dances.
the you」
〈大切な「ひとこと」を口にできないまま、あなたが汽車に乗り込むと、見送りに来たあなたの大切な人が涙を浮かべている。そうして、走り出した汽車を追うように走ってくる。しかし、二人の間の距離はみるみる開いていく・・・。そのあなたが、やがて見るであろう夜汽車の窓にゆれる夜とは、やはりカタルシスの踊る舞台なのである〉
 省みる交感に、新しい交感を注ぎたくなった秋子は、講義を終えた夜に、ミセス・リーンを伴って夜行列車に揺られた。リーンは新しい創作デザートを眼のオーブンで焼き菓子をこさえたいという。二人は暗い坩堝(るつぼ)のニューヨークへと向かった。
 世界には多様な物差しがある。衝撃の渦中、希望を求めながらもアメリカの多くの人々は伍劫の距離感を掴めないであろう。自由の女神は、真冬の未明に慟哭の眼を見開いたまま眠れないでいた。
 その自由の女神を眼差しながら未明の闇に秋子の吹く笛の音が流れた。その眼には比叡山に鎮められた西方浄土の穏やかな早朝の森を泛かべていた。



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                              第22話に続く
                      みうまそうたろう 文字 かな 正

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  きょうの細道    C 11 gif



  
   京都 二十四節気 清明。


  
   京都 二十四節気 穀雨。




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   京都 花そとば



  つきの暦  2013年2月

  つきの暦 2013 2



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Sotarou Miuma
立体言語学博士
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