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小説『花そとば』 第11話

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  こえんふどき五円風土記タイトル
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   はなそとば タイトル
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              第一部 八瀬童子(やせどうじ)   11

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      七  高札の聲 (こうさつのこえ)   



 東福寺(とうふくじ)は、京都市東山区本町にある臨済宗東福寺派大本山の寺院である。山号を慧日山(えにちさん)と号する。本尊は釈迦如来、開基(創立者)は九条道家(くじょうみちいえ)、開山(初代住職)は円爾(えんに)で、京都五山の第四位の禅寺として中世、近世を通じて栄えた。明治の廃仏毀釈で規模が縮小されたとはいえ、今なお25か寺の塔頭(たっちゅう、山内寺院)を有する大寺院である。
「たしかに・・・、一杯のカルヴァドスには、人を騙して奇跡を起こす力でもあるようだ・・・」
 東福寺駅へと歩きながら雨田虎彦は、駒丸扇太郎から昨年のフランス話を聞かされつつ味わった黒いカルヴァドスの一瓶を想い泛かべた。
 フランス留学をした男だけあって扇太郎は「南フランスでは呑まない北西部フランスの酒である」と言っていたが、醸造されながら完成に至らぬ(存在しないワイン)というものが、葡萄の育たないノルマンディー史には無数に存在した。そうした日陰の存在を扇太郎は「挫折の裏面史」だと物憂い顔で語っていた。
 そう聞かされてみて口に含んだワングラスの味わいには、たしかに挫折の裏面史にあるカルヴァドスならではの哀しい土に醸された慟哭でも嗅ぐような香気がある。人により嗜好は異なるであろうが、それは扇太郎が語るように、しばしば現実に存在するボルドーやブルゴーニュの上質ワインよりもやはり刺激的だ。風土を抜きにしては語れそうもない、その快い刺激は「あらかじめ挫折することで・・・」生まれた。
「奈良や京都の都こそが、あのカルヴァドスの一瓶と同じではないか・・・」
 と、そう思える虎彦には、戦乱絶え間なく継いできた日本の都なのであることが、一瓶のカルヴァドスが醸し出す現実に存在して図太くも繊細な林檎の味わいなのである。

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 カルヴァドスが珠玉の一瓶であるというには、虎彦にとって、この酒がひたすら凝縮されたものだということがなければならない。それは天体を語る長大なものではなく、わずか2000年ほどの土地に織りこまれた一片の布切れのようでありながらも、そこからは尽きぬ物語の真髄が山水絵巻のごとくにいくらも流出してくるということである。虎彦は日本の国が古来からそうであったように、現代もそうあり続けて欲しいのだ。
 そう希望すると、源氏物語、の作品が日本の近代文学史上の最高成果に値する位置に輝いていることを、虎彦は改めて重く思わねばならない。この一作だけをもってしても紫式部の名は永遠であってよい。したがって、光源氏が数多の恋愛遍歴を繰り広げつつ、王朝人として最高の栄誉を極める前半生で始まり、源氏没後の子孫たちの恋と人生で結び終えるここには主題から文体におよぶ文芸作品が孕む本格的な議論のすべてを通過しうる装置が周到に準備されているということではないか。時間を経過させ人が読み砕くほどに、仏教思想を織り交ぜて描くこの源氏没落後の恋物語は未完なのだ。未完ゆえに常に希望を蓄えている。

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 すると光源氏が抱えこんだ陰陽の世界というものが、現代の我々の存在がついに落着すべき行方であって、そのことを紫式部がとっくの昔から見据えていたということ、しかもその存在の行方を描くには、いっさいの論争や議論から遠のく視点をもって叙述しなければならないことを知っていたということ、虎彦は今そのことにこそ触れなければならぬように思えた。眼で追えば届きそうな東福寺以南の宇治までの距離にある風景が、橋姫、椎本、総角、早蕨、宿木、東屋、浮舟、蜻蛉、手習、夢浮橋の十帖なのである。

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「紫式部の文体が言霊(ことだま)であるのなら、人はたゞ唱えるだけでいい。人は式部の吐いた平安の言葉を、たゞひたすらに聞くだけでいい。それが言霊の効能であろう・・・」
 東福寺駅で香織と立ちつくしながら扇太郎を待つ雨田虎彦は、さきほど夢の浮橋の暗渠をみた感触を抱きつつ宇治十帖でも覗き見るごとくに眼を細く鋭くさせていた。
「源氏物語が単なる女子供の手慰みという、そんなことはないでしょう」
 と、以前、駒丸扇太郎もそんなことを言っていた。

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 その扇太郎という男は、幼い時からそばにいて父を見ていて、扇太郎には父が、学問や芸術に対して、山の頂を極める人のような、きれいな熱情を持っていた人のように、見えたという。扇太郎はそのような父の「きれいな熱情」をひたむきに追う影とでもなるように生きてるようだ。虎彦の眼には、それが彼の一生つづく道のように思われる。不思議だが、狸谷の扇太郎は、どこか懐かしい日本の何かを背負おうとする男なのである。
 そんな扇太郎が東福寺駅に姿をみせたのが午前9時であった。
「香織ちゃん・・・、おはよう」
 と、突然、背後から肩をポンと叩かれた香織は驚いた。
 臨済宗東福寺派の大本山として、また、京都五山の一つとして750年の法灯を連綿として伝える東福寺、そうして三人はその360余ヶ寺の末寺を統括し信仰の中心となっている境内へと向かった。

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 東山月輪山麓、渓谷美を抱く広々とした寺域に、由緒ある大伽藍が勇壮に甍をならべ佇んでいる。
 その東福寺の名は「洪基を東大に亜(つ)ぎ、盛業を興福に取る」と、奈良の二大寺にちなんで名付けられた。摂政九条道家が、奈良における最大の寺院である東大寺に比べ、また奈良で最も盛大を極めた興福寺になぞらえようとの念願で、「東」と「福」の字を取り、京都最大の大伽藍を造営したのが慧日(えにち)山東福寺である。嘉禎二年(1236年)より建長七年(1255年)まで実に19年を費やして完成したという。
 通天橋より眺める洗玉澗の紅葉の美しさには、通天もみじと言われるトウカエデが京都で一味違った紅葉の趣を添えてくれるのであるが、冬枯れた木立に埋もれるようにある天通橋の肌を刺す静けさは、本堂へと渡ろうとする三人の心を引き締めていた。
 方広寺のものとは違う「京の大仏」が東福寺に存在する。それは高さ15メートルほどの坐像で、奈良の大仏を意識して作られた京の大仏である。だが明治14年の火事で焼けてしまう。現存するのは片手のみだ。その巨大な大仏の片手は、本堂に安置されている。
「じつは・・・、焼け遺されたこの大仏の片手と、阿部家とには、不思議な因縁がありましてね・・・」
 と、片腕をじっとみつめる虎彦に、駒丸扇太郎はそう静かな口調で語りはじめた。

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 まことに細々とした弧(こ)を描く小さな列島がある。
 西洋の野心家らの眼にはそのように映っていた。
 極東に隠れるように陰(かげ)り、かたくなに国を鎖(とざ)したこの小さな島の連なりを敷島という。これが幕末に日光権現が弛緩して古きを捨てようとする日本という国の夜明け前の姿である。
 嘉永五年、そんな日本に迫りくる異国からの密かな一団があった。
「あの日本を補給基地として活用すれば、清国は近くなる。東海岸からインド洋経由で134日かかっていたものが、西海岸から太平洋経由でわずか18日で行けることになるのだ。じつに驚異的な時間短縮が見込まれる。ヨーロッパのアジア戦略に対抗するためにも、開国は是が非でも実現したい」と、
 餌を求めて飛び回る鴎(かもめ)の群れをみすえながら、老司令官ぺリー58歳はつぶやいた。

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 大統領の親書を携えたこの艦隊は、1852年11月(嘉永五年)にアメリカ東海岸のバージニア州ノーフォークを出航した。フリゲート艦ミシシッピ号を旗艦とした四隻の艦隊である。カナリア諸島・ケープタウン・シンガポール・香港・上海・琉球・小笠原諸島を経由して浦賀沖へとやって来た。1853年7月8日(嘉永六年六月三日)、ペリー率いる米海軍東インド艦隊の黒船来航がこれである。目的は開国の要求、ペリー代将はこのときフィルモア大統領から、琉球の占領もやむなしと言われていた。この年は、アメリカ国独立宣言から77年の節目となる、じつに記念すべき喜ばしい新たな希望の年でもあった。
 7月4日がその記念日にあたることから数十発の空砲で祝した。蟻(あり)が砂糖の山に群がるように浦賀浜にとりついた江戸の民衆は、突如と現れて空砲と黒煙を吹く、その船団の異様な大きさ、黒さ、怪しさにド肝を抜かれ、我先にと逃げ散った。
 ペリーの日本遠征記によると、二度の来航で百発以上の空砲を祝砲、礼砲、号砲の名目で撃ったという。結果、耳をつんざくような音に、江戸中が大混乱を巻き起こした。アメリカは、このようにして日本の鎖された封建の正門を黒船の大砲を翳(かざ)して強引にこじ開けた。
 翌1854年、ペリーはすでに香港で将軍家慶の死を知り、国政の混乱の隙を突こうと考えていた。二度目の恐喝に屈した江戸幕府はアメリカの開国要求を受け入れる。
 約一ヶ月にわたる協議の末、幕府は返答を出し、二つの不平等条約(長崎、下田、箱館、横浜などの開港や在留外国人の治外法権を認めるなど)を締結されてペリー艦隊は6月1日に下田港を去った。
 この黒船が開国へのトリガーであり、開国が明治維新へのトリガーとなる。
 産業革命期の世界の列強は、大量生産した工業品の輸出拡大の必要性から、インドを中心に東南アジアと中国大陸の清への市場拡大に急いでいた。後にそれは熾烈な植民地獲得競争となるが、競争にはイギリス優勢のもとフランスなどが先んじており、インドや東南アジアに拠点を持たないアメリカ合衆国は、清国を目指すうえで太平洋航路の確立が必要であった。
 また、欧米の国々は日本沿岸を含み世界中の海で「捕鯨」を盛んに行なっていた。これは、夜間も稼動を続ける工場やオフィスのランプの灯火として、主にマッコウクジラの鯨油を使用していたからである。太平洋で盛んに捕鯨を操業していたアメリカは、太平洋での航海・捕鯨の拠点(薪、水、食料の補給点)の必要に駆られていた。

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 永らく閉ざされていたこの敷島から、三本マストの蒸気船「咸臨丸(かんりんまる)」百馬力で米国桑港(サンフランシスコ)へと船出し、初めて太平洋横断を果たしたのが1860年(安政七年)のことであった。出港から到着まで、じつに37日を費やしている。
 洋行の目的は、日米修好通商条約の批准書を交換するためで、遣米使節団一行77名がアメリカ軍艦ポーハタン号(黒船)にて太平洋を横断するに伴い、咸臨丸はポーハタン号の別船として浦賀より出港した。この渡航より八年後の明治、日本はアジアで最初の西洋的国民国家体制を有する近代国家として誕生することになる。
 ご一新の、これが「ミカドの国」という小さな帝国であった。
 だが国名は、いかにも大きく「大日本帝国」と名付けられた。
 この小さな帝国に、ダグラス・マッカーサー は二度訪れている。初めて訪れた1905年(明治三十八年)とは、それまで世界史の中で隠れ隠れしていた小さな島国が、あたかも神風を吹かすがごとく、大国ロシアとの日露戦争に勝利し、ポーツマス条約を締結させて、大日本帝国の名を世界の大国らの前に堂々と知らしめた年である。
 フィリピン植民地総督のアーサー・マッカーサーの来日の目的は、駐日アメリカ大使館付き駐在武官としてこの日露戦争を観戦することであった。この時に「父と共に私も副官として観戦した」と後年に自身でほのめかしてはいるが、正しくはダグラスのみポーツマツ条約の締結後に遅れて来日した。いずれにしろ、ロシア帝国を破ったこの小国の想定外の変貌(へんぼう)が25歳のマッカーサーの眼にはどのように映ったのであろうか。またこの年の6月にはアルベルト・アインシュタイン(当時25歳)が特殊相対性理論を発表し光量子仮説を導入するなど、物理学の奇蹟の年といわれた。

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 日本の近代には二つのエポックがあり、係わる大きな二つのメイド・イン・アメリカがある。一つは開国を強要した「黒船」であり、二つは終戦を決定づけた脅威の「リトルボーイ」である。対象である世界大戦の上に何らかの幻想を織りあげるとすれば、これらは数奇な運命として連なるのだが。
 老人が山王社北にある左右庵を訪ねてきたのは、或(あ)る晩秋の夜であった。
 秋はものうく熟(う)れきっている。
 やわらかな雨打(あまうち)、そんな夜であるから、門前は呆(ほう)けたように閑(しず)かである。20年ぶりにみる、小さな茅葺(かやぶき)の門はしっとりと濡れていた。


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                              第12話に続く
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   京都 立春。




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  つきの暦  2013年2月

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