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京都風土記『花そとば』 第47話

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   Web小説    はなそとば 文字 正

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              第二部 山端の巫女(やまはなのみこ)   47

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      十一  花卒塔婆 (はなそとば)   



 微妙な呼吸のズレを感じた。それは、極、美妙な揺らぎでもあった。
 雨田虎彦は自分の鼓動が何かある種特殊な磁場によって、超微細準位の異なる2つに分離された空白を覚えた。その空白はセシウム原子時計で認知できるほどの磁場の励起かも知れない。感じた空白の励起を虎彦の言葉で現わすのならそれは、セシウム133の蒸気を分離する水晶振動子の誤差である。
 この男は長年、日本を含む世界の森林を廻っては、森や大地の香りを訊いてきた。有機物の、そうした樹木や動植物はそれぞれの磁場に立って棲んでいる。また樹木は山に限らず深海にもある。深海魚にも磁場は判る。誤差の予感はそんな虎彦が引き出した体感であった。

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 山神の座る手前に川がある。川は神と人を仕切る結界である。
 神は山に人を招くために一ノ橋を架けた。鎮守の森を慈しむ山守のための橋である。秋子はその橋姫を祀る巫女であった。橋姫の心身の向う岸、すなわち秋子の背後が聖域なのだ。
 エコノミクスではこの聖域は割り出せない。だか人は山を単なる材木としてエコノミクスで割り切ろうとする。これがエコノミクスの危うさである。山は過疎化の問題ではない。人為に問題がある。
「一瞬、その巫女を・・・、硬直させてしまった・・・のか!」
 言葉を選びながら巫女の領域を穢(けが)すことのないように注意していたのだが、それでもやはり何所(どこ)か気の障りでもあったのであろうか。虎彦は秋子の正面から空の方へと顔を逸らした。
 日本の山には、人の眼では不可視の注連縄(しめなわ)がある。
「ああ~、最高の秋空だ・・・!」
 一呼吸して見上げる高い空は、青い光が羽搏(はばた)く、なるほど「山寺の掃かれてきよき秋日かな」と月二郎のいう、境内をもう一覗きしたくなる秋空である。
 その青い光の青空にも秋は雲が千切れて時を伝える。見つめる眼に、うろこ雲がふと注連縄に思えた。

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 1秒が人間の標準的な心臓拍動の間隔に近いことから、人間は生理的に時間の流れを誤解する時がある。さきほど虎彦もそれを感じた。しかし考えれば、秋子によって誤解させられるところであった。どうやら虎彦と秋子とでは磁場に違いがあるようだ。虎彦は巫女の磁場につ近づこうとした。空白はその畏れか。
 現代人は時間を定時法で認識することにすっかり慣れたかのようにあるが、厳密にはこの世に不定時法で働いている時間がある。現在の時間の定義が定まるまで、人間による定義は幾度となく変遷した。太古のときを含む当初は、日の出から日の入まで(あるいは夜明けから日暮れまで)の12分の1が1時間(日本では、6分の1が1時(とき))とされた。よって、季節によってその長さが大きく変わり、昼の1時間(1とき)は夏は長く冬は短くなる。また、緯度によっても変わることになるが、人の行動範囲が狭い間はこれについては問題にならなかった。この時法を不定時法という。日本を含む東アジアでは、近世までこの不定時法が用いられていた。
 いずれにしても分割は十二進記数法によるものであり、これは月や方角など、広い範囲で見ることができる。1時間は、歴史的には地球における1日(より正確には1平均太陽日)の24分の1の時間として定義される。現在は、秒が時間の基本単位であるので、1時間は「秒の3600倍」と定義される。1時間は60分である。
 だが・・・、鈴掛衣を着たときの結界に立つ秋子はどうもこの磁場には居ないようだ。
 そう感じたから虎彦は少し話題を変えた。
「秋子さん・・・、岐阜県大垣に、圓通寺とうお寺がありましてね。その山門の石碑に・・・」
 と、虎彦はこう言葉を切り替えた。

        えんつうじ 岐阜県大垣 圓通寺 動1 gif    えんつうじ 岐阜県大垣 圓通寺 動2 gif

「大垣と言えば奥の細道の終着地、そこの石碑に・・・、連句がこう刻まれていましてね」
 秋子の黒い瞳をしずかに見て、その瞳に虎彦は少しの頬笑みを投げた。

                こもり居て木の実草の実拾ははや   芭蕉

                御影たつねん松の戸の月        如水

「元禄2(1689)年9月4日、芭蕉が奥の細道の旅を大垣で終えたとき、大垣藩家老戸田権太夫利胤(としたね)は、その芭蕉を室本町の下屋敷に招きました。利胤の俳号が(如水)です。このとき、弟子の路通も交え,俳諧を楽しみました。連句はその時互いに詠んだものです・・・」
 と、虎彦は口調の運びまでゆるやかに切り替えている。
 脇にいる香織にも分かるよう、二人の間合いに引きいれようとして穏やかに語り始めた。
「芭蕉は(できればここに籠居して木の実や草の実などを拾って暮らしたいものだ)と詠みます。これは如水の邸宅の風格に感じ入っての句だといえます。これを立句として、如水が(月夜、あなたの影がみすぼらしい我が家に写るのを待っていました)と続けたのです。初めて会った2人が、おそらく即興で互いへの思いやりの気持ちをやり取りする様子が浮かびますね・・・」
 適時に行間を頬笑みで区切り、秋子の呼吸を確かめつつ口調を整えた。
「この面会の2日後、芭蕉は伊勢へ旅立ちますが、その時、如水は風邪をひかぬようにと、頭巾、紙子、そして南蛮酒を贈りました。このようなできごとから、大垣を出立するときの様子や心情、当時の2人の表情さえも浮かんでくるようです。また、如水は日記のなかで、芭蕉の印象を次のように記しています・・・」

   心底難計(はかりがた)けれども、浮世を安クみなし、不諂不奢有様也(へつらわずおごらざるありさま)

「解釈すると(心の底を簡単に見通すことはできないが、俗世間の価値観にとらわれておらず、貴人に対してもぺこぺこせず、かといって傲慢な感じでもない様子だ)とでもなりますか。芭蕉が放つ独特の雰囲気が伝わってきますね」
 と、ここまで語ると虎彦は少し長く余白を置いた。圓通寺は戸田氏の菩提寺でもある。その山門をくぐった所に花崗岩でできた石碑がある。虎彦は置いた余白に、この門前で昔出逢った老人の背中を泛かべていた。
 戦時の体制に抗し、軍部のタブーに挑む姿は、烈々と青い火を噴く青龍のごとく見えた。男が口を突いた言葉は凄まじく激しい。虎彦はその男から一つの言葉を貰った。
 以来、胸に畳んできたのだが、門前の光景を思い出すと、その言葉は、男の言葉通りに青々と燃えた。
「その如水のいう(浮世を安クみなし、不諂不奢有様也(へつらわずおごらざるありさま)の文句、どうかその如水を、年寄りの冷や水ぐらいにでも思って、胸に抱えてはくれないだろうか。そして・・・一つ、今日、秋子さんに返さないといけない言葉がある。長いこと私が預かってきましたがね・・・!」
 そう言い終えると、虎彦はまた少し余白を残した。
「秋子さんは・・・、幽霊茸(ゆうれいきのこ)を知っていますよねッ。見憶えがありますよね・・・」
 言いながら虎彦は、その老人である男から貰った幽霊茸を泛かばせていた。
 幽霊茸とは銀竜草(ギンリョウソウ)のことである。
 銀竜草はイチヤクソウ科ギンリョウソウ属の腐生植物で、北方領土を含む北海道から沖縄にかけて分布し、湿り気のある林の中に育つ。海外では、サハリン、朝鮮半島、中国、台湾などにも分布する。虎彦はその幽霊茸を男から満州で貰った。満州で一度、大垣の圓通寺の門前で一度、虎彦は二度その男と出逢った。薄闇に浮かぶ花影ほの白く、銀竜草のシックな姿は、じつに不思議だと老人は語りかけた。
 虎彦はその後、石川の白山に足を運んだときに、闇間にその同じ光景を見つけた。その場所は、老人から聞かされた通り崖下にあった。
 幽霊茸は、葉緑素を持たず、落ち葉などを養分にして育つ。草丈は10センチから20センチくらいである。全体が白く、多肉質である。茎は直立した円柱状である。鱗片葉と呼ばれる葉の退化したものが、鱗のように全体を覆っている。10枚から20枚が互い違いに生える(互生)。開花時期は6月から8月である。茎先に壺状円筒形の花を1個だけ下向きにつける。3枚から5枚の花弁を重ね合わせているが、この花も白い。萼片は1枚から3枚で鱗片状である。花の先に紫色を帯びた雌しべと黄色い雄しべの先が透けて見える。実は卵形の液果(果皮が肉質で液汁が多い実)である。名の由来は、全体の姿を白銀色の竜に見立てたものである。幽霊茸(ユウレイタケ)という別名がある。根を含む全草が生薬の水晶蘭(すいしょうらん)となる。強壮、強精、鎮咳などの薬効がある。属名の Monotropastrum はギリシャ語の「Monotropa(シャクジョウソウ属)+astrom(似る)」からきている。種小名の humile は「低い」という意味である。8月に八幡平で写真に撮ったことがある。・・・これらは全てその男から聞かされたことである。
「この話を聞かされたとき、未だ秋子はこの世には生まれていない・・・!」
 虎彦はそっと眼を閉じた。すると奥深いどこかの深山(みやま)、泛かぶとその森に降り注ぐ青い青い光の息吹きを感じた。それは男が語った比叡山の光景であろうか。

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「じつは・・・、そのご老人と、さきほどの佐羅早松神社(さらはやまつじんじゃ)と、深い関わりがありましてね。秋子さんは・・・、きっともうお気づきのはずだが、そのご老人が誰かは・・・。今日は、どうしてもその事をお伝えしたかった。私の耳奥に遺されている、その肉声をね・・・!」
 言い終えるまでもなく、秋子はすでに頬を紅潮させていた。しだいに二つの瞼(まぶた)、二つの耳朶(みみたぶ)までも紅潮させた。そこには巫女の秋子、曾孫の秋子、二つの影が揺らいだ。青い揺らぎと、赤く揺らぐ二つの顔色を静かに見つめてみると、虎彦は一筋の泪を覚えた。
「よろしいかな、秋子さん・・・。そのご老人はこうおっしゃった。深い森の闇夜に生きる幽霊茸のように、自らが青々と燃えなければ、私を育んだ山河は、何処にも光はない。だから私は熾(おこ)り続けるのだ、と。きっとその山河とは二つあったのでしょう。一つは加賀の金沢、もう一つがここ狸谷・・・。私はこの言葉で満州の戦地を生き残ることができた。そして、いつか貴女に、この言葉を返すことができる日を楽しみにして、10年前に八瀬の方に別荘を建てました。遺言を曾孫に届けるなど・・・まさしく妙なご縁ですね・・・」
 そう言い終えたが、虎彦の眼には未だ尚、阿部秋一郎の面影が消えないでいた。
 またその眼には、満州ハルビン(哈尔滨)の荒野と、満州の地を廻りながら阿部秋一郎が行方を探し求めていた黒毛だという狸谷産の軍馬の影とが、赤々と重なり合って燃えていた。



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                             第48話に続く
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   京都 祇園白川、円山公園。


  
   京都 六角堂、京都御苑(京都御所)。




   そうごリンク
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   京都 花そとば



  つきの暦  2013年2月

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