スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

京都風土記『花そとば』 第35話

                            signbot (10)
   D 1 gif                                                  C 5 gif
   ライン グラ 黒 gif

     Ron B  

                   B 7 gif
   C 8 gif A 1 gif C 18 gif               Sotarou 1C 10 gif 
   ライン グラ 黒 gif

                     ごえん 連 gif

          きょうと洛北 gif
                          ごえん風土記 かな上 
           ごえん風土記 スライドB gif
                            go 五 gif
     鹿F
げんそう 4 gif

   ライン グラ 青 gif

   Web小説    はなそとば 文字 正

   さくら散る gif  さくら散る 2 gif

              第二部 山端の巫女(やまはなのみこ)   35

   ライン グラ 青 gif


 げんそう9 動9 gif

                       きじ 動1 gif




      九  雉子の聲 (きじのこえ)   



 八坂神社から帰ると裏山の藪の茂みをじっと見ていた。
 そして、眼をそうさせたまま、脳裏には遠い昔の、ある弔いの光景を浮かばせていた。
「寒さが温んだら、もう一度、瓜生山の頂に上がろう・・・」
 奈良から戻った日にそう思い、雨田虎彦は今日もまた同じようにそう思った。M・モンテネグロに会って以来、そう思い続けてはいたのだが、老いた足取りがなかなかそうはさせないでいた。
「これでは・・・、あの、ほろうち、ではないか・・・!」
 裏の藪から眼を居間に移すと、テーブルの上には、3つのコーヒーカップが香織が運んできたままの状態から微塵も動かないでそのままにある。すでに来客は去りコーヒーは冷めていた。

 コーヒー珈琲 600

「何や・・!。手ェつけはらんと。せっかく君子はんが・・・」
 客の一人は、狸谷の波田慎五郎である。もう一客は、詩仙堂裏の駒丸扇太郎であった。香織はコーヒーを運んでから一度も顔を出してない。三人が何やら息を詰めた気配を匂わせていたからだ。それにしても二人は、足音一つさせないで風のように帰って行った。
「かさね・・・、裏山で雉(きじ)の声するの、聞いたことあるかい?」
 ぼんやりとした小さな声でそう訊いた。
          きじイラスト 動1 gif
「雉やしたら、裏には来ィしまへん。崖ェあるさかい子ォこさえるの向きへんのや思うわ」
 と、意外に味気なく、夕餉支度に追われてそうあっさりと答えると、香織は手つかずのカップを盆に下げてキッチンへと向かった。そのいかにもさり気ない後影を見つめながら虎彦は「やはり瓜生山か・・・」と思った。
 羽をバタつかせてケンケーンと鳴く。これを雉の、ほろうちという。
 春を告げる声でもある。早春の草原や果樹園の茂みなどで耳にする。縄張りの主張やメスへのアピールだ。4月ごろ繁殖の季節を迎えると、この時期の雉は、赤いトサカが大きくなり体も大きく見えるようになる。行動をより大胆にするようになる。だが冬場、ほろうちをしないわけではない。
 以前、虎彦は高野川を渡った鞍馬山に向かう柿園で聞いたが、あれは晩秋であった。雉の居る場所はかなり薄暗いところで、上空が遮られているほど安心できるのか人が近づいても逃げないことが多い。一度は大原のミカンの木の下で、ほろうちは直立して鳴き始めるが、その姿をみたことがある。虎彦の記憶では、そのときメスがすぐ横にいた。冬の雨後、緑のない枯れ草を歩く雄の雉はよく目立つ。
 しかし、虎彦が想う雉は、瓜生山の雉だ。

                   きじ ほろうち 動2 gif

 来客が去れば応接の四脚はポッカリと穴を開けたように夕暮れの陰でそう見える。
「アメノワカヒコの妻のシタテルヒメの泣く声が、風と共に高天原まで届いた。・・・そして、高天原にいるアメノワカヒコの父のアマツクニタマとアメノワカヒコの妻子達が聞いて、地上に降ってきて泣き悲しんだ・・・。ああやはり、これは・・・、あの、ほろうち、ではないか・・・!」
 またそう思えると、応接の椅子に腰を落として、もう一度慎五郎の話を泛かべた。
「ねっ、どうして降らないの?・・・」
 と、夕実から問われ、
「ふーん、どうしてだろうね。・・・・」
 と、慎五郎は答えた。
 子供は大人社会を選べない。多くの場合、希望と化した予測は裏切られることになる。だが親としては、そこから子供を持つということの、そして子供を育てるということの喜びをいだく不思議さが始まる。意外な個性を持った子が育ち、驚かされることになるのだ。

                   A 11 gif

「雨の降らない御堂筋・・・」と、
「雨を詠う作詞者の声・・・」か。
 慎五郎はしだいに、子の夕実に囚(とら)われ、夕実の夢がいう「雨」に囚われていくという感覚を抱いてみると、そこにRobert Villon(ローベル・ヴィヨン)教授の顔が懐かしく重なってきた。
 放置すればやがて喪失感を抱くであろう子の夕実。恍惚とした時の夢を見つめながら喪失感に近い溜息をついてみせたヴィヨン教授。二人が、共通して感じさせるものは、同じ性質が引き起こしてみせる喪失感ではないか。慎五郎はそれが、どちらも人間の想像力をかき立てる美学としての表現だと確信すると、白い教授のパナマ帽を眼に想い泛かばせ、そこに悔悟の念を抱きながら昭和53年10月の出来事を思い出した。
                         パナマ帽 動 gif
「あのときの、ヴィヨン教授が正しかった」
「雨の作詞は、白秋でありませんでしたね」
 親子なのだから、師弟なのだからいずれは解り合えるという幻想は幻想として、宿命的に相容(あいい)れない親子や師弟というのも間違いなく存在する。
 そうだとすると、夕実とヴィヨン教授はその宿命を前にして立ちすくみ、慎五郎はその宿命にどれほど荒々しく爪を立てようとしたであろうか。そう考えると10月の結論の皮肉な運命がやるせない。慎五郎はヴィヨン教授に一言の詫びを入れねばならなかった。
 思い出した10月の「雨」が慎五郎をそうあおり立てた。
 神に摂理されながら完成に至らぬ「存在しない雨」というものが、この世には無数に存在するのかも知れない。もしそうであれば、慎五郎の今煽(あお)られるこの挫折にも等しい裏面史は、しばしば現実に存在する降り注ぐ雨より刺激的だ。
 だが、あらかじめ自らが挫折することで「雨を見ること」を感じさせる時間が現実に存在していることを、一体どう考えるべきか。そう想われると慎五郎はひからびた地に立たされて熱い太陽を身に浴びるようであった。
「教授はPluieと名付けましたね」
 慎五郎はシモーヌ・ヴェイユが『重力と恩寵』のなかで「メタクシュ」というきらきらとしたギリシア語を何度もつかっていたのを思い出した。メタクシュとは「中間だけにあるもの」という意味である。きっと雨にも重力と恩寵が関与しているのであろう。
 雨は重力とともに地上に落ちてくるが、その前にはいっとき重力に逆らって天の恩寵とともに空中で中間結晶化というサーカスをやってのけているはずなのだ。ヴィヨン教授はその「いっとき」を追いつづけた人だったのだ。
 そう思って、あらためて教授と過ごしたエズ(EZE)での夏休みを振り返ってみると、教授は地上の雨にはいっさいふれないで、天から降ってくる途中の雨だけを凝視しつづけて慎五郎が聴かせた童謡「雨」の雨音を聞いていたことに気がつかされるのだ。

                             コマドリ 動 gif

 そうしてあのときヴィヨン教授は、飼っていた駒鳥に「雨」とい名を付けた。慎五郎がその鳥を眼に泛かべると、教授の手元からその鳥が帽子を啄(ついば)み飛来してくるように感じられた。
 そう感じると、その駒鳥は狸谷に飛来してくるのだ。狸谷では熱い太陽に煽られた慎五郎、秋子、夕実の三人が地蔵と化して佇んでいる。駒鳥はその、それぞれに教授からの帽子をプレゼントしてくれる。どうしたことかヴィヨン教授は、狸谷育った秋子には笠地蔵のあの菅笠を、慎五郎には黒いパナマ帽を、夕実にはピンクのリボンを掛けた麦わら帽子をかぶせてくれる。慎五郎はそんな錯覚の赤い雨をふと抱かされていた。

じぞうと帽子 4 gif

 昭和53年10月、高度成長期にふくれあがった中高年層の中で、ラインの管理職からはずれたオフィスの窓際にデスクを構えるミドルたちを「窓際族」と揶揄した年である。またこの年、原宿の竹の子族と、「あ~う~」という、大平首相のやたらに間延びした口調を慎五郎は記憶しているのだが、微笑ましくもないそんな色彩の紡ぐ妙な慰めには、ほろ苦い世相をにじませていた。
 東京という都会のくたびれる通勤や通学の、肩が触れ合う空間には、かんしゃく持ち、気配り下手、仕事でしくじったかの人が地下鉄に揺らされていた。その許容の物差しは微妙に各様で、ささいな言動があらぬ化学反応を引き起こす。思えば、そんな東京そのものが、巨大な満員電車のようなものであった。
 しかし何かと縮こまりがちで、虫酸が走りそうなそんな時代に、対して丁寧に時間をかけて編まれた書籍には、万感、胸を襲って貫いていくものを感じさせられた。慎五郎はそんな一冊と出逢ったのだ。その一冊が慎五郎の世相の走る虫酸をゆっくり溶かしてくれた。慎五郎は刻み込むように綴る著者の背中を感じ取りながら読み進めてみると、自身がその著者の何かを引き取って実現しなければと覚悟した。
「・・・・・・・・、・・・」
 と、長い沈黙の中で、ふと虎彦はある種のひらめきを覚えた。
 眼の中には、慎五郎が持参して見せた分厚い書籍がある。だが、その一冊は同じモノが東京の虎彦の自宅もあった。ここがじつに奇遇なのだ。その本を慎五郎から見せらたとき、虎彦はふと涙すら覚えた。
 おもむろにステッキを突きたて身体を起こすと、もう曲がらなくなった膝を固々しく曳き磨りながら静かに書斎へと向かった。その眼には日本で最も古い「記紀」が泛かんでいた。
                            ほんをめくる gif

 にほんしょき日本書紀 動1 gif

 二つの書に夷振(ひなぶり)という歌の記しがある。

    日本書紀
    あもなるや おとたなばたの うながせる たまのみすまるの あなだまはや みた
    にふたわたらす あぢすきたかひこね
    あまさかる ひなつめの いわたらすせと いしかはかたふち かたふちに あみはり
    わたし めろよしに よしよりこね いしかはかたふち

    古事記
    あめなるや おとたなばたの うながせる たまのみすまる みすまるに あなだまはや
    みた にふたわたらす あぢしきたかひこねの かみぞや

 この夷振(ひなぶり)は大歌所(おおうたどころ)に伝えられた宮中を代表する楽舞である。鼓吹に合せて奏楽し、朝会公儀等の時に用いられる。
 和歌の祖とされる下照姫の作とされ、由来は日本書紀の歌謡となる。
 しかし古事記のこれは、日本語なのだろうかと解釈に苦しむ歌であるが、古事記には、その一部分が伝わる。
 この歌を解釈した本居宣長は、
        天なるや 弟棚機のうながせる 
        玉の御統 御統に あな玉はや
        み谷 二(ふた)わたらす 
        阿遅志貴高日子根の神ぞや
 と、して天織姫が首にかける宝石と、アジスキタカヒコネ神が発する光が谷を渡って輝く情景を描いた。
「これは・・・、日本版の七夕、織姫と彦星なのだろうか・・・!」
 とも虎彦には思えるが、古今和歌集、その仮名序は、この歌について次のようにいう。
        世に伝はることは、久方の天にしては下照姫に始まり..
        下照姫とは 天わかみこの妻なり
        兄の神のかたち 丘谷にうつりて輝くをよめるえびす歌なるべし
 ここでは、夷(ひな)を「えびす」と言い換えている。枕詞「あまさかる」は「ひな」で受けないと五七調にならないが、本来はエビスを修飾する言葉が「あまさかる」だったのかもしれない。そうであれば、夷振は「えびすぶり」になる。そう辻褄を合せると、西宮戎の「えびすかき」が宮中で披露されていたことにも通じるではないか。あるいは虎彦が今日訪ねた八坂神社とも重なり合う。
「しかし・・・、 あまさかる鄙(ひな)という書き方は万葉集にはない。どうもここは、後代の解釈による当て字のようだ。(鄙)という字は悪い意味が強すぎて避けられていた。どうもそう思える・・・」
 そう思い当たると、虎彦は眼を細く鋭くして、天井を見上げると夜空に北極星でも見出したかに一点を見た。そこにはかって万寿寺でみたものと同じものが吊るし止めてある。
 香織に頼んで御所谷の竹原五郎から拝借したものだ。
 みつめると赤いトウガラシの小さな束が、鬼門を祓うとばかりに揺らいでみえる。そう思えてやや嬉しさが微かに湧くと、しだいに眼を庭先へと回したが、眼をやるその顔がチラリと窓ガラスに映ると、虎彦はにわかに笑みを浮かべたその自分の顔を、じっとみて口角にして笑った。


                            A 14 gif

  こじき古事記 動1 gif


                             第36話に続く
                     みうまそうたろう 文字 かな 正

   ライン グラ 青 gif

  きょうの細道    C 11 gif



  
   京都 平安神宮神苑。



   そうごリンク
      A 9 gif
   きょうと 2はなそとば 2

   クリック・ボタン gifA 5 gif   ひめくり古都の道
   京都 花そとば



  つきの暦  2013年1月

  つきの暦 2013 1



   みみずく文庫 欧文サイン gif                                みみずく 2 gif
   ライン グラ 青 gif
  Ron SO 30   ちきゅう gif 
                                    Mimizuku 20
         
                           そうたろう イラスト動 gif


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

三馬漱太郎

Author:三馬漱太郎
Welcome to Ron「漱」World
Sotarou Miuma
立体言語学博士
Social Language Academy Adviser
応用社会言語科学研究員

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。