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京都風土記『花そとば』 第23話

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   Web小説    はなそとば 文字 正

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              第二部 山端の巫女(やまはなのみこ)   23

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うりゅう山 1

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      二  六部の春 (ろくぶのはる)    



 幼いころに伯父と思って親しんだ清文さんが、十数年後に、じつは実父でそれを今まで伏せていたのだと養母和歌子に詫びられて明かされたとき、秋子はそんな和歌子を素直に許すことができた。
 他界後に、しかも祖父阿部富造の遺言として告白されたためだ。その遺言を、秋子はすべてを過去形で物語る他人事としての単なる紙切れぐらいに思おうとした。
 本名を阿部清四郎だと確認はしたが、それは本人よって捨てられた名でしかない。望んで捨てた名を子が大切に抱くのも妙なモノに思われた。もしも父であれば、父はそんな男であって欲しかった。
 養母和歌子にしても祖父富造の遺言を預かり、祖父の存命中は固く口止めされていた。その和歌子を責めることは筋違いではないか。そう冷静に思えると、秋子はじっにあっさりとしていた。
 動揺を案じ続けた養母和歌子が不思議ぎがるほどに、それほどじっにあっさりとしていた。裏切りによる悲しみや動揺よりむしろ逆に、もしそこに何かを偲び挿むのだとすれば、それはただ一つ、ぼんやりとした結び目の見えない少しの空白を覚えたことであろうか。

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 何よりもまた、和歌子とは二十ほど歳下の、その清文は秋子の胸にじつに数多くの薫陶を遺してくれた。幼いころに触れた清文ならば、出家して高野山に上がっても何の不思議さはない。少し日が経つと、清四郎より先に清文の方に照らすことで感じられる実父の像(かたち)が思いの他快く面白いとも思えた。
「アキ・・・、この蟻なッ、ほらよう見てな。このぎょうさんな行列、これお弔いしてはるとこや。どこに向かいはるか解るかアキ。あっち御堂あるやろ。御堂の下、お墓なんや。そのお墓なッ、あそこに入口の穴ァあるんや。ほんにお山の蟻さんは、偉いなぁ~・・・。よう学問してはる蟻さんたちや・・・」
 と、嬉しそうに語るその顔が鮮明い泛かぶ。
 秋子は、こうして清文の語りかける少年のような眼差しと笑みが大好きであった。

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 大人が幼子に語り伝える童話のように、清文は優しさを湛えて、あるときは滑稽に、ジャン・アンリ・ファーブルの世界とロマン・ロランの世界とを噛砕いて真剣に面白く話してくれた。ああ、あんな難解な二人の関係を、ああも興味をそそらして解り易く教えてくれたのか、と今更ながら秋子が思い描くその天才の姿は、すでに10年前にこの世から亡くなっている。
 そのとき、じつは実父が死んでいたのだ。
 てっきり清文伯父さんは、延暦寺の若いお坊さんだと思っていた。あるときその姿を突然見なくなったが、和歌子は伯父さんが高野山に移られたと語った。幼いころの秋子には、明らかな宗派の違いなど解るはずもない。比叡山の僧が、高野山の僧に移り代わることは余程のことだ。
 勘当した身の上の亡きがらは、その父の富造が、さらに勘当して高野山へと葬られた。

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「ああ、憂国の蜜蜂さん達よ。ほらほらどうして君たちは、そんなに楽しく飛べるのかい。ブンブン笑顔で飛べるのかい。・・・・」
 と、野山を歩きながら昆虫や他の生物をみつけては語り聞かせる清文の「ああ、憂国のOOさんよ」で始まる定形の口調が独特のまま耳奥にある。
 対象として扱って面白い昆虫が、身の回の比良の山々には数限りなくあったから、清文はその生物の研究に人生の大半を注ぎ込もうとした。清文はそんな野山の達人であった。幼いころより清文の背の上で秋子は共に野山を歩き、あるいは延暦寺の僧の生活も覗きみた。
「出家しはって勘当され、死にはって、次ィお墓まで勘当やなんて・・・」
 そう思えると、しみじみと切ない話になる。裏山の崖のくぼみで、今年もまた秋子は冬の終わりを感じた。
 裏庭から仰ぐように見上げると、柱状の高い崖の頂きには猿復岩(さるまたいわ)という二つ瘤の奇岩がある。
 その奇岩の両端に、注連縄(しめなわ)を渡した山水の落とし口がある。
 比叡山の雪解け水がこの猿復岩をくぐり、岩肌の凹凸(でこぼこ)をつたいはじめると、崖の中程にあるくぼみの岩垣は、いつしか石清水を湛える小さな池となる。
 群れをはなれた野生猿はこの池に、するりと崖の上から伸びさがる葛の根をつたって降りてきた。あの杏子(ももこ)も上手にするすると降りていた。

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 それは仔猿一匹が身を洗う盥(たらい)ほどの岩垣で、夏の盛りに涼をとる山猿の、股開きに尻をひたし逆立ちで面(つら)を洗う、秋子がみかけて呆(あき)れるほどの、天衣無縫の霊怪な夏安居(げあんご)は、いささか滑稽である。呆れたついでに、密かに待ちうけて撮り、その記念写真の数枚はアルバムの中にある。
 藪柑子(やぶこうじ)の赤い実が落ちて水ぬるむころに、くぼみの淵よりあふれしたたる清らかな水辺には、毎年決まって瓜生山から鼠(ねずみ)もめんの小さな客人(まらうど)がやってきた。
 石清水に心惹かれてやって来る、この客人の澄みやかな奇瑞の声が聴こえると、阿部家の裏庭では秋子の育てる笹ゆりが、新しい花芽のさやを小さく細く孕(はら)ませる春が訪れるのである。
「ああ、六部(ろくぶ)さんや・・・来はったんや」
 と、丸く愛くるしい顔をして秋子は今年もつぶやいた。
「六部さん、来はりましたか。おこしやす・・・」
 とまた、秋子はお迎えの挨拶でもしたくなる。阿部家の春は、まずこの来客に始まるのだ。
 そんな奇瑞の客は、黄鶺鴒(きせきれい)である。
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 澄みやかな声でチチチッ チチチッとさえずり、トントンと尾羽を上下させる奇瑞の客である。
 チチン チチンと鳴く。 チチチッ チチチッとさえずる。
「ちりりん~ちりん。ちりりん~ちりん。ちりりん~ちりん。ちりりん~ちりん。・・・・・」
 と、そのさえずりは、聞いている秋子の耳で、しだいに鈴音のように響き合うようになり、阿部家の春は、この巡礼の鈴音とともにやってきた。

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 水辺にそんな黄鶺鴒が姿をみせるようになると、
「今年は、和歌子はん・・・、どこに行きはるんやろかなぁ・・・」
 と、丸く愛くるしい顔をして秋子はつぶやいた。
 阿部家の代々が廻国をした。そうした鈴音に誘われるようにして、鈴の音は乙女心につらつらと、秋子には20歳過ぎころから裡にくすぶる淡い思いが遺されていた。
 継ぎ継ぎて旅立つ男たちを見てきたことも、そここにはある。旅立ちを胸の裡にしながらも、未だ旅立てぬ秋子なのであった。
「橘の 寺の長屋に わが率(ゐ)寝(ね)し 童女(うなゐ)放(はな)髪(り)は 髪上げつらむか。と、飛びたちかねつ鳥にしあらねば・・・」
 と、万葉の昔にすでに社会の矛盾にあえぐ男がいた。
 先の旅たちかねつ鳥があたかも後進の鳥に旅立つべき道の導(しるべ)を与えてくれているかのように聞こえてくる歌声である。雁の使いは、この歌声の不幸を聴きながら発心をし、満願とする寺までを辿ろうとする阿部和歌子が、鈴音をふり鳴らしながら遍るようになってからもう五十年にもなる。
 今年もまた例年と少しも変わらない春をみずからの裡(うち)に迎え入れることを発心として、また例年の通りそうすることを秋子に書置きして、80歳の和歌子は西国の巡礼へと向かった。
「あと八年は元気でのうてはあかんのやさかいに・・・」
 身は細くとも老いの眼は気丈なようだ。そう言って和歌子は凹凸詩仙堂の角から秋子の守る阿部家の屋根を振り返りつつ、その眼には実弟阿部清四郎の若き面影を湛えていた。
 その和歌子は、八十八ヶ所をめぐり終えた後、高野山に上がり満願の墓参を果たしたいのである。80の老体で一人遍路など無謀とも思えるが、しかし和歌子も女子ではあるが、法衣の声の行き届く山端に生まれたのであるから、成し遂げて満たさねばならぬ何事かはあろう。
 それは、山端に育った女の分別として、蟠(わだかま)る一つや二つの心障りな失念を、最期にふりしぼる決着の気構えであろうか。未だ米寿までは死んでも生きるのだと叩く口は持つ。
 満願への門出・・・、それを悟って秋子は、裏の畑にいて知らぬ顔をした。

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 和歌子の気丈さは、すでにその出で立つ姿に現れていた。
 まず墨染めに再色し直したモンペ仕立ての京友禅が、達観した女僧さながらに見える。あるいは、その頭上に薪の束でも載せればモダンな大原女(おおはらめ)がはんなりと歩くようでもある。
 モンペ仕立ての創作ではあるが、まさに大原女のその風俗に似せた和歌子の風姿は、島田髷に手拭を被り、鉄漿をつけ、紺の筒袖で白はばきを前で合わせ、二本鼻緒の草鞋を履いている。
 阿部和歌子はこのスタイルで京都から飛び出すように西国へ出た。そんな度胸の気丈さは、80歳にして、若返り娘の悪戯(てんご)でも見るかの趣であった。

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「私が昔、橘寺の長屋に連れてきて共寝をした、おさげ髪の少女は、 髪を結い上げるほどの大人の女性になって、他の男と結婚しただろうか・・・」
 と、京都駅から、和歌子の視線は一点に絞られていた。
 それは・・・昔、橘寺の長屋に行って、一緒に過ごした乙女への思い。
 可愛らしいおさげ髪が似合う乙女だったのであろう。
 女性は大人になると、長く伸びた髪を束ねて結い上げる。髪上げとは、成人した女性になることを示し、結婚する意にも用いられていた。
 時がたてば、少女も大人の女性になる。
 少女の頃しか知らない、この作者は、過去の思い出から、現在へと思いを馳せていく・・・のだ。
 作者自身も当時は若く、淡い思い出としていたものが、ふっとよみがえったのであろう。
 そして、あのときの少女が、今では綺麗になったのであろうな、と懐かしく、そう思う。
 それは必ずや・・・、遠く時がたってしまった思い出ほど、心の底で忘れられない存在となる。
 密かにそう念じながらお遍路を続けてきた和歌子は、満願となる八十八番札所の寺の写真でしか見覚えのない景色を想像した。今年もまた何事かを心に秘め、発心を抱き、お遍路となった阿部和歌子は白峯寺(しろみねじ(へと向かう五月の道の辺にいた。

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 生憎、この日は雨あがりの曇天である。香川の田の畦はぬかるんでいた。
「あそこも、そこも、水たまりや。お足ィ、気ィつけとくなはれ・・・」
 と、連れ添う秋子が背後から度ゝ促しかけた。やはり気掛かりで、秋子は足もとの加勢にきたのだ。和歌子は高知と松山でニ度めまいを起こしお遍路宿に数日を伏せた。気丈な和歌子が、音をあげたかに連絡を寄こしてきたのは道後温泉の宿からであった。しかし少し回復すると、やはりまた気張っている。
 秋子から優しく促される、その度に和歌子は、うなじのあたりがツッと引きつれるのを感じた。
 秋子には、齢80になる養母の足もとが、いかにも危うく見えるのであろう。しかし老いを看取られているような心遣いは嫌である。和歌子は何喰わぬ顔で、ぬかるみを歩きつゞけた。べったり泥で汚れようとも、ひとあし、ひとあし、八十一番へと近づいてゆけることが心うれしく思えたのだ。 
 そして春泥の道をみかえると、
 帰りたいと啼いた梵鐘の白牛山国分寺から辿る白衣の影が、幽かに点ゝと続きながら綾松山へと曳き、和歌子はそのお遍路いる。口に出さずとも、秋子が心根の優しい娘であるなど、すでにとっくに解る切っていることだ。あたりの畑には、やわらなか緑のえんどうの芽が愛らしく伸びていた。そのエンドウは兄富造の大好きな花であった。このとき和歌子は、かって兄が密かに教えてくれた奈良斑鳩(いかるが)の花を眼に泛かばせていた。
「あれ・・・は、法輪寺さんの守り花や・・・そないに言ってはったなぁ~・・・」
 美しい魂ともつながる虚空の喜びを感じた。
 兄富造が語ってくれたように、小さな細いつるを伸ばして、するすると天まで伸びるような春の芽ぶきは、やがて白蝶のような花を咲かせるのである。
「砂粒ひとつ落ちとらへン。まっこと、ありがたいことや」
と、連れ添う秋子にそう呟いた和歌子は、石段の登り口にある愛染堂でそっと腰を下ろした。
「濃いお茶(ぶ)、淹(い)れてきたさかいに・・・」
 赤いボトルを取り出す秋子はどこまでも気さくだった。
 24歳を過ぎというのに、未だ少女のような無邪気さを持っていた。しかし弟の密かな落し児を養母した和歌子には、未だに子供沁みてることは、永遠に消え失せることのない喜びのようで嬉しくもあった。

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 そんな二人は八十八寺を終えると、坂出へとお遍路を引き返した。
 再びお遍路六十九番の観音寺で、静かに聞き入るように、他のお遍路者の鈴音を聴き終えた和歌子は、手筈通り坂出駅から列車に乗ると、五月の瀬戸大橋から望む小島を越えて岡山へと向かったのである。
 きらりきらりと輝く海はどこまでも長閑で、眼下にはその五月の瀬戸内がある。瀬戸内の海をながめながら先ほどは魔窟にでも踏み込んだような恐れを感じていた。
 二人の眼の前には、頼仁親王の御庵室があり,庭内に親王の歌碑がある。
「この里にわれいくとせかすごしてむ 乳木の煙朝夕にして」
 五流尊瀧院には一太刀の血痕を刻み込んだ明治の古馬車が遺されていた。
 うるしも剥落し、経年の変化に依る損傷が著しい明治初期の馬車である。
 その右扉付近を拡大すると、
「血痕と島田一郎が振り上げた日本刀が当たった痕跡が130年弱経過した今日でも判っきり解る状態。 大久保利通殺害時の際に犯人が使用し警視庁が証拠品として押収した日本刀。先端部分刃先が欠損しているのは、犯人の島田一郎が刀を振り上げた際に、大久保利通が乗っていた馬車に当り折損したのが原因。警視庁に依り証拠品として押収され保管されていたもの。刀に僅かな曇が見られる。関東大震災の際に警視庁本庁舎が被災炎上の際も無事。警視庁本庁舎特別資料室保存。一般非公開。特別公務用務者以外、部外者の警視庁本庁舎内部は一切立入不可」
 と、ある。しかし、そう記されいることは、以前から和歌子には解っていた。
 秋子はその脇にいてたゞじっと見ていた。すると養母の手が振るえている。
 そんな和歌子が一筋の涙を湛えなから立ち尽くしている姿が、未だ秋子の脳裏から離れない光景として、眼の奥に棲みついたかのように泛かんでくる。

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 そして・・・・・、比叡山の西麓は森閑として閉じられて遠い悠里(ゆうり)のように真夜中の闇に沈んでいた。
 雨音の途絶えた静寂がその闇の深さを物語っている。
 京都では未明から傘がいらない程度のかすかな雨が降っていたのだ。
 和歌子が居間まで起きだしてきて足元をふらりと危うくさせた。眠れないのであろう。秋子は朝餉の支度には少し早いようだが、と、ふと裏山で鹿鳴が聞こえたような気がして雨模様の庭を見ていた。
 すると和歌子は夢に魘(うな)されたみたいである。
「ほんに・・・、変な夢ェやったわ・・・・」
 と、ポツリという。
 しだいに和歌子はその夢を語りはじめた。それはどうも以前に見た夢を、再びまた見たのだという。しかも同じ夢を見たときの不思議さを三度見たと思えるのだという。
 Get up. Wake up. It rained.
「・・・起きなはれ 目覚めなはれ・・」
 雪のふる平原を七頭の白い猪(いのしし)が一陣の風のように走り去る。すると笠(かさ)を目深にかぶった一人の修験道が雪の舞い込む戸口に現れて、和歌子に起きるよう呼びかけた。
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「・・臨(りん)・兵(びょう)・闘(とう)・者(しゃ)・皆(かい)・陣(じん)・烈(れつ)・在(ざい)・前(ぜん)・・おん まりしえい そわか・・」
 笠をとり樫(かし)の杖(つえ)を戸口に突き立て、真言を唱えはじめた修験道は六尺を越える大男で、頭は短く刈り込んでいる。異形の風体ではあるが、影でつま弾く異国語のイントネーションはどことなく愛敬(あいきょう)があった。声の主は、手に摩利支天(まりしてん)の印を結び、皺(しわ)の目立つ目尻を下げてやさしげに笑んでいた。
 まぼろしの如(ごと)く和歌子の前に現れた修験道は、白絹に包んだ物を差し出した。
This is entrusted. It is an important thing. Will not lose it.
「これは・・・」
 と訊(たず)ねるが、包みを手渡した修験道は、するりと身をかわし、和歌子がまばたきの間に、三和土(たたき)を蹴って和歌子の背後へと回ると、上がり框(かまち)を踏んで奥座の方に通り抜けていた。
Slowly ..what... Attach running after me early.
 何か激しい憤りすら感じさせる足どりで居間や座敷を土足のまま通り抜け、和歌子の兄富造が書斎としていた離れの前で、初めてはき物を脱いだ。昨夜、和歌子はこの離れの数寄屋で一通の置き手紙をしたためたのだが、雪舟の架かる奥座だけは13年前(昭和終年)と同じように整然と保たれていた。
Oh this room is made like the Showa era. I seem also to have had the conduct oneself to which it had still to return.
「あっ、これ氷柱(つらら)やないか・・・」
 白絹と見間違えたのか。和歌子の手には凍りつく氷の棒が掴(つか)まされている。

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 It did not make a mistake in it. It sees it so when there is a hesitation in the mind.
 冷たさの不思議さと戸惑いを手にした和歌子は、握りしめると鼻筋につんと痛みが走り、身をはがされた魚のように骨組だけが残されて皿の上に横たわるように感じられた。
「この皿、あの九谷の絵皿やないか・・・」
 艶(あで)やかで高価な大皿に盛られると、骨組だけの魚の姿が、目鼻なく口もない頚城(くびき)のみに薄暗く縛られた我身のように思われる。
Do not say it is miserable. Everyone is done so from generation to generation, this house is piled up, and it has set it up.
「ああ、あのときの、祝の日ィの皿や。落として割れた祖父のものやわ。せやけど、なして・・・」
 と、喉元までせり上がった言葉を堪(こら)えると、むしょうに涙がにじみ、小刻みにふるえては耐えがたくなってきた。すると荒唐無稽(こうとうむけい)の絵のように不思議な景色が次々と泛かんでは消えていった。
It is the street. It is possible to recall, and recall it more. Be stirred up more of the mind.
 東の空に白い虹が架かってる。西の空には五色の虹が現れている。
 星もまばらな夜空にかかる白虹(はっこう)も五色の虹も、和歌子はそれぞれが美しいと思った。

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「東みたらあかんえ。西ィ向きなはれ。お清、悉皆(しっかい)しなはれ。忘れたらあかン教えたやないか」
 行き迷う耳に、どこからともなく湧くように母秀代の声が懐かしく聞こえてきた。
Ah the voice is mother's voice. It does so and my Kiyoko is watched, and it gives and it gives it. It will ask suitably in the future.
 京都では明けたばかりの東の空に白虹のかかることが稀(まれ)にある。
 科学的には琵琶湖の水温に係わる自然現象であるのだが、古い時代に公卿(くぎょう)らが叡山の荒法師を恐れ、東の空に白虹が立つと忌み事として怪しんだことから、お秀はその空の兆しをみると戒めていた。
 東の白虹はお家の滅亡を、西の五色はお家の繁栄を暗示させるのだ。
 こんなとき秀代は決まって西の空に目を向けたし、東のお山へは決して近づこうとはしなかった。
 思い起こすと、祖母や母の手で育てれた和歌子はやはり東の空から顔をそむけた。
「ああ、言いはッた昔の通りなんやわ。せやけど未だ叱らはるンやなぁ~・・・」
 西空を見上げていると、天井がぽっかり二つに割れ、五色に輝く虹が大きな渦を巻きながら流れ去ると、そこにはキラキラと白銀(しろがね)の舞い踊る美しい吹雪の空が広がっていた。
 しかし、それにしても・・・、なぜ異国の言葉が、和歌子の耳に届けられたのかが不思議であった。



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                             第23話に続く
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  きょうの細道    C 11 gif



  
   京都 大原の里 三千院。



    
   京都 大原女。



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   きょうと 2はなそとば 2

   クリック・ボタン gifA 5 gif   ひめくり古都の道
   京都 花そとば



  つきの暦  2013年1月

  つきの暦 2013 1



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Author:三馬漱太郎
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立体言語学博士
Social Language Academy Adviser
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